燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
13章:過去と旅行と初めての夜(B side)

 夜、新しく来たテーブルで拓海が眼鏡をかけて難しそうな本を読んでいるのを、あたしは向かいの席に座ってじっと見ていた。

「あたし、拓海が眼鏡かけてるところ嫌い」

 あたしが思わず言うと、拓海はやっと顔を上げる。


「え?」
「だって、いつもあたしじゃないもの見てるときに眼鏡かけるんだもん。仕事の書類とか本とか見る時」

 拓海が眼鏡をかけてるときは、あたしなんて見てないときだ。
 あたしではなく、本の中や本を通した先にいる患者さんを見てる。話してる。


 あたしからしたら浮気してるも同然だ。
 あたしが膨れると拓海は苦笑した。

 ちょっと、何笑ってんのよ。あたしにしたら大問題なんだけど?

< 178 / 350 >

この作品をシェア

pagetop