燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「気づかないでゴメンね? でも、こういうこと、一人でやんないでって言ってるよね?」
その怒った低い声にはなかなか慣れない。
天馬先生は、いや、私の夫は、普段とび切り優しいくせに、この手のことは絶対に許さない。
この手のこと、とは、私が『人を頼らなかった』時だ。
「……だ、だって、先生忙しいし、これくらいでいちいち呼んでられないでしょ?」
「だって、じゃない。つばめ、そういう無理するとこ、いつまでも直んないよね。前も言ったのに」
ぴしゃりと言われて身が縮こまる。
泣きたい気分になったところで、突然後ろから抱きしめられて、首筋に痛いくらいのキスを落とされる。
「ひゃっ……!」
「それにまた『先生』って言ってる」
(それ、まだ有効でしたか――――⁉)
最初の夜以来、天馬先生は、ことあるごとに『先生』と呼んでしまう私に、先生のしるしを一つつける。そんなわけで、私に残る先生のしるしは、いつまでも消えることがない。
人に見られたら恥ずかしいから嫌だと言っても、先生は、何が恥ずかしいの? と気にもしてない様子だ。