春永すぎて何が悪い?
寝る準備をして布団に入る頃、ドアがガチャガチャ開く音がした。
龍樹だ。

私がもう寝たと思ってるのか、無言。

「ただいま」くらい言えばいいじゃん。
私を起こさない優しさなのかもしれないけど。

スタスタと部屋を歩く音だけが響く。

龍樹もシャワーに直行する人だ。

寝室を覗くことなく、浴室の方に足音が消えた。
しばらくしてシャワーの音が響く。

こんな毎日だ。

私は漫画を読みながら、いつのまにか寝落ちすることも多い。

朝は龍樹が起きる前に家を出る。

たった1時間合わないだけで会話がほぼない。

漫画を読みながら、キラキラしてる主人公たちと今の私とのギャップに苦しむ。

あの高2の夏なら、まだ漫画になっただろうか。

龍樹から告白された夏。

あの頃は毎日毎日「奈穂ちゃん」「奈穂ちゃん」ってうるさくて、いっつもうちの教室に来て、一緒にお弁当食べて、一緒に帰って、龍樹の家に行って。

毎日毎日ドキドキしてた。

すごく、好きだった。

すごく、好かれていた。

あの気持ちはずっと続かないのかな。
そんなもんなんだろうか。

10年も経てば、そんなもんなんだろうか。

私は瞼が重くなってきてスマホを充電器に繋げた。

そして龍樹を待つこともなく眠りに落ちた。
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