ごきげんよう、愛しき共犯者さま
進化ではなく、退化をしたようです

 私は花を吐く病気だけど、もしかすると兄は、無関心だったものに興味がわく病気、なのかもしれない。

「千景?」
「待って、小銭入れがない」

 花吐き病と診断されたあの日、どういうわけか、私に無関心だった兄が、その私に優しく接してきた。
 でもまぁ、さすがに興味なんてなくても、奇病にかかったとあれば同情くらいはしてくれたのだろうと、違和感にイチイチ脳みそのキャパをオーバーさせながらその日を終えたのだけれど、これまたどういうわけか、兄の奇行はその時だけに留まらなかった。

「家に忘れたんだろ。ほら、奢ってやっから、はよ買え」

 診断を受けたあの日から、およそ一ヶ月。まず、私に話しかけてくるようになった。次いで、登下校を共にするようになった。そして、夕飯前と夕飯後の一時間ずつ、私の部屋で一緒に勉強をするようになった。何より、全体を通して私に優しくなった。
 学校から帰宅中の今だって、帰路の途中にある自販機でジュースを買おうとするも財布が見当たらない私に「奢ってやっから」と小銭を握らせてくれた。

「……あ、りが、と……帰ったら、返すね」
「いらねぇ。大人しく奢られてろ」
「……わ、かった。ありがとう」
「おー」

 握らされたそれで、【あったか~い】表記のミルクティーを買えば、いたく満足げに兄は笑う。

「なぁ、コンビニ行かね?」
「いいけど、何で?」
「肉まん食いてぇ。半分こしよ」
「……私は、いいや、」

 これが病気でないのだと言うのなら、この兄は誰かが成り代わった偽者だ。早急にどうにかしなければいけない。
< 8 / 38 >

この作品をシェア

pagetop