嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
(よかった~。深く追求されなかった)

 せっかく危機を乗り越えたのに、タイミングの悪いことに遠くから美琴を呼ぶ声がした。

「若奥様~!」

 御堂家で厨房で働く久実だ。料理人見習いの彼女は新入りで、最近屋敷に来たばかりだった。久実は息をきらせてこちらに駆けてくる。

「まぁ。若奥様だなんて気の早いことを」

 ふふと嬉しそうにそう言ったのはまりえだった。「え?」と久実は首をかしげた。丸代のフォローも間に合わず、久実は美琴に向き直り言う。

「礼さんが若奥様をお探しでしたよ」

 今度首をかしげたのは、まりえだった。

「若奥様ってあなたのことなの? どういうことよ?」
「それは、その」

 どう頑張ってもうまい言い訳が思いつかない。美琴が頭を悩ませているところに礼がやってきた。
もっとも、この場に彼が加わるのは火に油な気がしないでもないが……。

「美琴。ここにいたのか。おや?」

 礼はようやくまりえの姿に気がついた。

「まりえさん。うちになにか御用ですか」
「えぇ。大事な用があって。でも、それよりも呉服屋のお嬢さんがここで若奥様と呼ばれている
理由が知りたいわ」

 礼は平然と答える。

「あぁ。彼女は俺の婚約者だからですよ」
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