嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 あきづきは小さな店だが、扱う品はたしかだ。美琴の曾祖父にあたる人は染色作家で、その世界では有名だったのだ。だが、ともかく頑固な人で営業は下手くそなんてもんじゃなかった。それで、彼の息子、美琴の祖父が営業担当になったのだ。それが呉服屋あきづきのはじまりだった。曾祖父とその仲間の作品だけを扱っていた創業当初からの信念は今も変わっていない。

「あきづきの着物は商品ではない。芸術品だ」

 だから手広い商売はしない。本当に納得できる素晴らしい着物をその価値をわかってくれる人に届けること。それが使命だと思っている。幸い、そんなあきづきを信頼してくださっている職人さん、作家さん、お客様はたくさんいる。

「とはいっても、世の中の着物離れは深刻よねぇ。最近は成人式すら着物を着ない子も多いし」

 あきづきの経営も決して楽ではない。お客様は高齢化する一方で、新規の顧客はなかなか根付かない。あきづきは父である勝司と美琴のふたりで切り盛りしている。母は美琴が高校生の頃に病気で亡くなった。ひとりで奮闘していた父を支えるため、美琴は大学卒業後すぐに家業を手伝うことにした。といっても、美琴は着物が大好きで実家を継ぐのが小さい頃からの夢でもあった。大好きな着物にかこまれ、充実した毎日を送っている。
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