夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
8.



 外観はクリーム色。5階建だと思っていたマンションは、6階建だった。
 オートロックで、管理人さんも平日9時から20時までいてくれるらしい。2人交代制なのだそう。

 それを聞いて、凄く安心する。
 子どもの安全は、やはり人の目があるのが一番だと思う。今のアパートは建物は古いけど、弥生さんが見守ってくれていたから、安心していられたのだ。

 エレベーターで6階に上がる。
 久保田さんの部屋は、最上階の角部屋だ。
「実際は1階下ですけど、眺めは大体同じのはずですから」
 そう言って、久保田さんはドアを開けた。

 玄関が広い。大人3人と小さくない子どもが1人いて、やっと狭く感じる。私と太一なら広々だ。
 玄関脇の部屋は6畳の洋間。物が置いてなかった。なんにもない。
 洗面所兼脱衣所もバスルームも、広い。そして綺麗に使われていた。洗濯機もあるけど、洗濯物は見当たらなかった。
 廊下を進んだ奥にはリビングダイニング。対面式のキッチンは綺麗過ぎる。使われてないんだろうな。
 リビングにも物は少ない。テレビとローテーブル、ソファーくらいしかない。
 引き戸を開けると隣は6畳の洋室。ここにはパソコンと机、ベッドがある。
 やっと人の気配がした。

 全体的に日当たりが良くて、窓が大きくて眺めもいい。
 多分、下の部屋もそう変わりないだろう。

 それはいいんだけど。

「あんた本当にここに住んでるの?」
 中村さんも、私と同じことを思ったらしい。
 生活感がなくて、久保田さんがここでくつろいでいるところとか、想像できない。
「住んでますよ。まあ、寝に帰ってるみたいなもんですけど」
「やっぱり。そんなんで、夕飯食べに帰って来れんの?」
「時間はなんとでもなるんですよ」
「ならもっと早くなんとでもしなさいよ。残業ばっかしてないで」
「はは、そうですね」
 突っかかる中村さんをかわして、久保田さんは微笑んだ。
「これからはそうします」
 私に、言った。ように思う。

 だって、私を見ている。目が合っている。

 優しい目。
 その微笑みは黒くない。

 どうしたらいいかわからなくて、目をそらして太一の様子を見た。

 太一は、キッチンにいた。
「太一、勝手に入ったら駄目でしょう」
 とがめる私に、久保田さんはまた微笑む。
「いいですよ。見るために来てもらってるんですから」
 久保田さんが太一の隣に行って、キッチンの説明をしてくれる。
 開放感たっぷりの対面式。シンクは大きくて、ガスコンロは3口。調理台も広い。作り付けの収納もたくさんあって、背後には食器棚と冷蔵庫。一人暮らしなのに、家のよりも大きい。ビルトインの食洗機まである。
「どう?太一君」
 久保田さんが聞くと、太一は頷く。
「広い……です」
「使えそう?」
 太一は考えながら周りを見回して、頷いた。
「使いやすそう、です」
「良かった」
 久保田さんは微笑んだ。

 ひと通り見せてもらって、部屋の感じはわかった。
 見る前から予想はしてたけど、いい部屋だ。
 本当に、家賃さえ払えたら、即決するのに。

 とにかく考えさせてもらうことにして、帰ってきた。

「中村さん、付き合わせちゃってすみません。ありがとうございました」
「いいんです。私が行きたかったんですから。それにしても、生活感ゼロでしたね」
 私は苦笑した。
「いいお部屋でしたけどね」
「ほんと、部屋は良かったですね。私も一緒に住みたいくらい」
「えっ久保田さんと?」
「まさか」
 冗談だ。2人で笑った。




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