夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
今日の夕ご飯は、焼き塩サバ大根おろし添え、切り干し大根の煮物、なめこと高野豆腐と野菜たくさんの味噌汁、ご飯。
焼きサバは、太一君の好物なんだそうだ。
「僕も、魚の中では1番好きかも」
「じゃあ、また出します」
太一君の仏頂面の端に、嬉しそうなのが見える。
僕も嬉しい。好物が一緒なのもそうだけど、太一君の仏頂面の陰の感情が、少しだけだけど見えるようになったのが嬉しい。
食器を片付けに、太一君の横に立つ。
太一君はグリルを洗っている。
「そこ、置いといてください」
小平家では、食器は軽く水で流してから食洗機に入れるルールだった。
調理スペースに食器を置く。
太一君は手際良くグリルや鍋を洗っていく。
「洗い物も慣れてるよねえ」
感心してそう言うと、太一君は頷いた。
「いつもああなんで」
太一君の視線を追うと、ゆっくりゆっくり食べている彼女の姿。
「僕がやるのが1番早いから」
「待たないの?」
そういえば、待ってるのは見たことがない。
「待ってる方が急かされてるみたいで嫌だって」
「そうなんだ」
「でも時々ぼーっとしてるから、注意しとかないと、いつまでも食べてます」
ははは、と2人で笑った。
少しずつ、太一君の口数が増えてきているのが嬉しい。
昨日のハンバーグ作りは、太一君も手伝ってくれた。
2人で涙を流しながらタマネギをみじん切りにして、僕が肉をこねる横から太一君が塩コショウをして、形を作る時に空気を抜くことを教わり、真ん中をへこませるのも教わった。
焼くのも教わりながら、初めてにしては上手くできたと思う。
味も好評だった。
でもそれよりも、太一君との距離が縮まったのが、凄く嬉しかった。
食後のお茶を運んでいくと、ぼーっとしていた彼女が気付いて、ご飯を口に入れた。動きが小動物っぽい。
笑いをこらえながら見ていると、僕のスマホが震えた。
母からの電話だった。
彼女に断って、リビングから出ながら通話をタップする。
「はい」
ーーー圭?今どこ?まだ会社?
「家にいますよ」
ーーーいないじゃないの。
「はい?」
ーーー出ないわよ。ピンポンしたけど。
「来るなら連絡くださいよ。今開けますから、少し待っててください」
リビングに戻って時計を見ると、診療終了時間の直後だった。
今日は患者が少なかったらしい。
「何かあったんですか?」
やっと食べ終わったらしい彼女が、僕を見上げている。
「母が来たらしくて。ごめん、今日は帰るよ」
お茶のカップを太一君に渡す。
「ごちそうさま。また明日、よろしくね」
太一君は頷く。
彼女は玄関まで送りに来てくれた。
「母に、言ってもいいかな。お付き合いしてるって」
そう聞いたら、彼女は一瞬ためらったけど、頷いてくれた。
「大丈夫、ですか……?」
何が、と聞きたかったけど、母を待たせているから時間がない。
きっといろんなことを含んでいるだろうその言葉を受け取る。
「大丈夫だよ」
笑顔を見せる。
彼女は少しだけ安心したような顔をした。
「遅くなると思うけど、連絡するよ」
頷く彼女の頭をなでて、小平家を出た。