花を愛でる。



俺の18歳の誕生日の前日、父親に呼び出されて客室に出向くと、そこには何故か雛子とその父親がいた。
そして自分の父親の言葉に耳を疑う。

俺の婚約者?


「は? ちょっと待って。何のこと」

「早乙女さんのお嬢さんとは仲良くしていただいているんだろう。未だまだ小さいが将来のことを見据えてだな」

「そうではなくて」


丁度兄も父親に紹介された名家の一人娘で彼と同じ年の女性と婚約を結んだところだった。
だからいつか父が俺にもそんな相手を用意してくるのは予想が出来ていた。

でもそれが雛子だなんて、冗談にもほどがあるだろう。

雛子は自分が今そのような状況に置かされているのか理解していない様子で、不安そうな顔を浮かべてお気に入りのクマのぬいぐるみを抱き寄せた。
まだ10歳も満たしていない少女と婚約しろだと? ふざけるな。



「(何かがおかしい……)」


気持ちが悪い。吐き気を催しそうだ。ここにいると俺の中の常識が崩れそうだ。


「(どこもこうなのか? 親の理不尽に子供が苦しめられるのは普通なのか? この家に生まれた時点で、俺は普通の人生を歩むことすら許されないのか?)」


この家に俺の居場所はどこにもない。


『遊馬は将来どんな大人になりたい?』


俺は、きっと兄のような大人にはなれない。
言いたいことも口に出来ない。親に反論することも出来ない。自分を殺すのが一番楽な生き方なのだと気付く。


「(なれないよ、兄さん)」


兄さんみたいに上手く生きられない。



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