花を愛でる。



しかし彼の目的は分からない。秘書のような近い存在と関係を持つメリットはずっと前から分からない。
リビングへ向かう背中に問い掛けると振り返った彼が意味深な笑みを浮かべた。


「なんて言ってほしい?」

「……」

「前に言ったとおりだよ」


前に、と途切れ途切れの過去の記憶を呼び起こしていると社長の指先が私の頬に添えられた。


「花が面白いから。それ以外理由ないでしょ」

「それ、以外……」

「欲しい言葉ならいくらでもあげるよ。嘘でもいいなら」


嘘、そうこれはどちらかが求めすぎるとあっけなく崩壊してしまう脆い関係。
一時の快感に身を任せれば、それだけで全てが手に入ったような幻覚を見ることが出来る。

きっと私はこの男の罠から逃れることは出来ない。


「(あの日の選択を後悔する……)」


出来ればあの日に戻ってやり直したい。全部、私が望んだ通りに。

この天使のような、悪魔な男と出会う前に。


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