花を愛でる。


二社を行き来し、真摯な態度でトラブルを解決する姿を見たら親の七光りだなんて誰も言いやしないのに。


『兄さんの手助けだけは回避しないとな』


移動中のタクシーの中、外の景色を眺めていた彼の口から漏れた言葉。
彼の兄である、向坂グループ全体の代表である人が彼の仕事における原動力なのだろうか。


「(仕事とプライベートだと別人みたいだな)」


きっと彼はそういうスイッチングが得意な人種なのだろう。そうであれば私もプライベートのことについては口を挟まない方向で行こう。
仕事面でしっかりしていてくれたら迷惑を掛けられることはないのだから。

そう、思い込んでいた時期があった。



彼の秘書になり、多忙な日々を送っていた私にある連絡が届いた。
それは別れてから疎遠になっていた元恋人からの「久しぶりに会わないか」という誘いだった。

昔の恋人に会う理由に考えられるのは交際していた頃に借りていた品を相手に返す、またはよりを戻したいというお願い、または簡単に性欲求を満たしたいという下心か。
何となく検討はついている。そして当時の私は秘書として多忙を極めており、色恋からは長い間離れていたこともあって思考が自分でも安直になっていたという自覚があった。

気が付けば彼には肯定的な返事を送っていた。


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