光を掴んだその先に。




「もしそうだとしても、私───…那岐が隣にいてくれるなら全然怖くない」



その光は、俺に温かさをくれる。

初めて腕に抱いた命の重さと優しさ、小さな手を伸ばして涙を掴もうとする赤子。


俺はあのとき、あの瞬間、“生きている”と思った。



「那岐が一緒なら、ぜんぜん平気。…那岐がいなくなっちゃうほうが怖いもん」



そうだ、こいつはあのときだって。

男たちに囲まれた恐怖よりも先に俺の名前を呼んでいた。


何度も何度も繰り返して、小さな手は俺の手をぎゅっと握っていた。

それは俺がどこかへ行ってしまわぬように必死に。


さっきの他の女のものとは比べ物にならない。



「俺はお前を、ずっと知ってる。ずっとずっと昔から……知ってるんだ」


「うん、やっぱり…昔の男の子なんだよね…?」



言うな、言うな。
言ってはいけない。

またこいつを傷つける羽目になる。

そう思っているのに、俺は自分の前髪を掻き上げた。


大きく見開かれる瞳を前に、少女と同じ場所にある同じ傷を見せる。



「───…同じだ。…ふふっ、同じだっ」



そいつは笑った。

俺と同じ傷を見て、心から嬉しさを表すかのように。



「なに、笑ってんだ…。どう考えても笑うとこじゃねえだろ」


「だってすごいよ那岐っ!まったく同じなんだよ!?世界中どこ探したって私たちだけにしか無い傷なんだよっ!」



俺たちにしか無い傷───…。

なんだ…それ…。



「え、那岐泣いてるの…?傷痛む?私ぜんぜん痛くないのにっ」


「…うるせえばーか。目にゴミが入っただけだっつの」


「えっ、馬鹿ってなに!?」



再び光を目の前にした日。

俺は、かつて言葉では表現できなかった愛しさを思い出した。



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