守りたかった能登原守と飛びおりた妹
【3. 自殺の現場から】

妹が飛びおりたのは家族でよく行っていた避暑地のホテルにある、8階の踊り場からだった。

夜にいなくなった妹を探していた母の照らす懐中電灯の中に浮かび上がる妹の亡骸。それを見つけ、それを認識していった時の母の気持ちを思うたびに俺の心はキシキシと痛む。

俺が現場を訪れたのは強い日差しの真昼間だった。

普段住んでいる都会と違って空気は澄み、空は広く高い。
そこから下に目を転じれば今度は味気ない地面へと引っ張られそうになる。いや、実際に地面が自分の顔に迫ってくるような感覚に何度も襲われるのだ。

その時妹は何を思ったか。
人生を振り返っただろうか。俺のことはどう思ってたのだろうか。そこに至るまできっとたくさんのことを考えただろう。それとも即座に気を失っただろうか。

半年ほど前にも一度妹は死のうと考え海に向かったことがある。夜中に知人総出で夜の海辺を探しまわった。
あの時死にきれずに帰ってきた妹。俺たちは安堵したが、きっとあいつにとってはまた違う感情があったのだろう。

自ら命を絶とうとする人の思いというのは、それこそ死ぬまで続く。

人は死ぬまで、生きざるを得ない。
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