ちよ先輩のてのひらの上。


「……先輩の下の名前を、知りたいです」

「俺の名前?」

「はい」


息苦しいくらいに、それは速さを増していった。


「……先輩、前に言いましたよね。私の初恋の男の子の名前を知りたいって……」

「……うん」

「その子の名前、教えるので……代わりに先輩の名前を、教えてください」


……どうしてあのとき、秘密になんてしちゃったんだろう。

素直に答えていれば、……もう少し早くこの答えに、辿り着けていたのかな。


「その子の名前は」


私は、ゆっくりと唇を開いた。


「——アオイくんです」


頭上で、先輩が息を呑む気配がした。


「苗字は、知らなくて……。ただ、誰かがそう呼んでたのを、聞いたことしかなかっ——」


私の声は、そこで途切れてしまった。

視界いっぱいに映ったのは、ちよ先輩の制服。

きつく抱きしめられる感触に、目元がじわりと熱を帯びた。

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