ちよ先輩のてのひらの上。


「うっ。ピュアさに心が洗われる……。ね、ちよ先輩っ」


安川先輩が同意を求め、私の全身の神経がちよ先輩の方へと傾いて。内心ドキドキしながら、その返事を待った。

……けれど。


「そうだね」


驚くほど穏やかな笑顔が、優しい声を落とす。

……私の心を温かくするはずのその笑顔は、今回ばかりは容赦無く、チクリと突き刺してきた。


……やっぱり、面白がってただけみたい。……当たり前だよ。

私の初恋が誰であろうと、……ちよ先輩には、関係ないことだもんね。


「ね、その男、なんて名前?もしかしたらこの学校にいるかもよ」


未だ興味津々な様子で、安川先輩が私に尋ねる。


「——秘密です」


私は笑顔を貼り付けたまま、口を開いた。


「 私の中で、大事に、とっておきたいので」


精一杯の強がりでそう言うと、ボトンッ、と鈍い音が響いた。

見ると、お兄ちゃんがペットボトルを落とし、お茶がゆっくりと床に広がっていくところだった。

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