待ち人、音信なし

その言葉を聞いた時、私は頷けなかった。

私が生まれてこれまで戦争は起こらず、何年ぶりの安寧だとメディアで騒がれていたくらいだからだ。

きっと私達が生きてる内は起こらないよ、と答えるのが精一杯だった。

『大丈夫だ、すぐ帰るよ』

やだ、行かないで。

『じゃあね、イヴ』

お願いだから。

「でもたまに、こんな風に生きてても良いかなって思うときもあって」

ぷらぷらとパンプスの爪先を見る。
思い出は美化されていく。
苦しかった毎日が、今の自分によって歪められていく。

何も言わないノアさんは壁になったのだと思う。

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