世界でいちばん 不本意な「好き」


「俺も大好きなんだよね。実写化するなら絶対に遼くんは俺が演じたい」


聞いてないのにいっぱいしゃべってくる。

演じたいって、真剣な瞳。…なんだか、嫌だ。


「鏡子さんはアリスに似てるかも」

「え、そう?」

「うん。ダメ彼氏に盲目なかんじ、似てる」


なんか責められてる気分になる。


「…悪い?」

「え、なにが?いいことだと思うよ。誰かをすごく好きになれることってなかなかないよ」

「……」


真っ直ぐな言葉から、瞳から、思わず視線を反らす。


「汐くんはダメ彼氏じゃないし」

「あ、ごめんね。そういうつもりで言ったんじゃなくて、一途に人を想えるのはアリスの良いところなんだなって思ったんだ」

「……」


つまり久野ふみとは、誰かのことをすごく好きになったことが1度2度はあるってことね。


わたしはべつに、盲目なつもりはない。

汐くんのことは大好きだけど、それは、あることが前提で、それをクリアしている汐くんだから良いの。


すごく好き、という物差しで測られると、きっと純粋な数字にはなれない。


「…というか、なんでいるの」


うちの学校は基本的に、部活動や係の活動以外で放課後校舎内にいることは禁じられている。


「励くんが部活抜けられないみたいで、待つことになってるんだ」


ああ、そっか、校舎案内か。

やってあげてもいいけど…汐くん、もうすぐ迎えに来てくれると思うから、やっぱり今日はだめだ。


「アリスは何か部活入ってる?」


その問いかけに首を横に振る。この調子じゃ文庫本は読めそうにない。


「そーなんだ。俺ねー、軽音部か吹奏楽部かで迷ってんだよねー」

「え、今から入るの?」


思わず眉をひそめる。

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