世界でいちばん 不本意な「好き」


わたしに対するふみとの影響力はほかの人から見てもすごいみたい。もう、認めるしかないね。

まちがいなく、毎日が変わった。気持ちが変わった。


「…あのね、リハビリでピカロの曲ばっかり練習してるんだけど、とりあえず披露してもいい?何かリクエストあればほかも弾くよ」

「なんでもいい。弾きたい曲を弾きたいように弾きたいだけ弾いて」

「わかったよ。ショーマ、寝てていいからね」

「寝る前に風呂いってくるわー」


自由だな。

とりあえずデビュー曲から弾こうかな。最近歌詞まで覚えちゃって、なんだかはずかしい。


「ねえ月湖。やる気になってる時に言うのはどうかと思うんだけど、知らないよりいいと思うこと、ひとつだけいい?」


言いにくそうな声。さっきまで熱弁していたのに。

だけどきっと必要な話なんだろうと思って小さく頷く。



「美夜花ちゃん。音大やめるんだって」



コンクールでは成績はふるってなかった。ちゃんと見ていた。

オーケストラのピアニストになりたがっていたのはお姉ちゃんだった。


「そっか。きびしい世界だよね」


3浪して入った音大だった。
1年通って、美夜花ちゃんは何を見たんだろう。


「うん。私は音大には行かない。音楽教室をひらくの」

「…え、意外なんだけど」

「自由に弾いていいの。楽しいだけ。いろんな楽器を置いてなんでも弾いていいの。何時間でも数分でも」


そんなふうに考えていたんだ。

わたしが目をそらしている間も、寧音や美夜花ちゃんたちはピアノと向き合い続けていた。


わたしはどんなふうにこれから向き合ったらいいんだろう。向き合っていく自信もまだない。


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