【短編】クロがないた日
『ちび』
鈴のように高いソプラノ。
産まれて間もなく拾われて、みぃちゃんに名付けられた名前。

一人で過ごすことの多かったみぃちゃんにとって、ボクは何でも話せる弟代わりだった。
どんな時も一緒だった。

貿易商だったお父さんが戦場に行って、お母さんの田舎へ向かう途中、事件が起きた。

突然の空襲。
崩れた家屋。
黒と赤に染まる記憶の中で、ずっと抱きしめていた手が、ふいにボクを自由にした。
『行って』
僅かな隙間にボクを押し込む。
『ちび逃げて!』
その瞬間、天井が炎上しながら落ちてきて、みぃちゃんを庇うようにお母さんが覆いかぶさった。
耳をツンザク悲鳴。
お母さんとみぃちゃんと、ボクの悲鳴。

『生きて!』
弾かれるように隙間に飛び込み、ボクは目茶苦茶に走った。
町外れまで来て、振り返った。
ぼんやりと遠い火の海を見遣る。

何処に行けばいい?
ボク独りで?
もう、君はいないのに!

悲しくて悲しくて、生きることも辛くてボクは、心を閉じてしまってたんだ。
おばあちゃんに、出会うまでは。

みぃちゃん、ごめんね。
忘れていて、ごめんね。
ボク、がんばるから。
みぃちゃんやみんなの分まで、絶対幸せになる。
約束するから。

我に返って息を飲んだ。
火の海はウチの辺りだ。
「おばあちゃん!」
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