あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
「……そうですね」
「そうとなれば自宅に行っておじいさんとお婆さんにご挨拶したほうが——」
「それはダメ」
とっさに出た言葉に、彼は驚いたように私をみた。
「いや、あの……わざわざ家まで挨拶に行く必要はないです。電話じゃダメですか?」
「え?」
家にこられたら柊一のことがバレてしまう。
私の態度にもし祖父母が何か感づいたら困る。
「それに初対面じゃあるまいし……私が電話をするので後で変わってください」
私はすぐに電話をした。
「もしもしばあちゃん? 私」
『翼、あんたずいぶん時間がかかってるけど……柊ちゃんぐずり出して』
「そうなの? ごめんね。それでね婆ちゃん——」
私は蛍の森と引き換えに彼の家政婦になったことを説明した。
祖母は、毎日通うのは大変だよと、心配した。すると悠一さんが電話を変わり、
私に負担がかからない程度に少し家のことをお願いしたいだけだと説明した。
彼の説明はとてもうまくて、心配していた祖母も許してくれた。
「家政婦は明日からでもいいですか?」
「それは構わない。ちょっとまってて」
そういって彼はチェストの引き出しから家の鍵を取り出し、それを私の手の上の乗せた。
「この鍵を使ってくれ」
「はい」
「特に時間の制約はない。俺も仕事で現場に出ていることがおおい。それとたまにここで本社の人間とリモート会議をするが、気にしなくていい」
「はい」
会話が途切れると、私たちは自然と見つめあっていた。
あんなに会いたかった人との再会は、決していい形ではなかった。
私は勝手に子供を産み、彼は別の女性との結婚を控えていた。
自分から姿を消した身で彼の選択に文句を言う資格もない。
だけど彼を思う気持ちと、彼を失った事実に胸が痛い。
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