隣の部屋の新人くん
「俺、大阪の企業の最終面接と、ここの一次面接が被っちゃって」

きれいな横顔のラインだなあ、なんてことを考える。

「俺、岡本さんに連絡したの覚えてます?」
「え?」

突然話を振られて戸惑う。
思い返すけど、いろんな学生相手にしてきて覚えてない。

「『どうしたらいいんですかね』って採用係の岡本さんに相談したんですよ、俺、馬鹿だから」

坂口くんが一年前の自分を鼻で笑う。

「そしたらさ、岡本さん、『弊社にとっても大切な一つの縁なので』って」
「そんなこと言ってないよ」
「絶対言いましたよ、『スケジュールはできる限り変更します』って」

私は恥ずかしくなってパソコンに目を向ける。

「あの瞬間、恋に落ちました」

大げさな坂口くんの言葉に、キーボード打つ手が止まる。

「でも、どうせ三年目の若い岡本さん想像してたんでしょ」

自分に言い聞かせるように言って、またキーボードを打とうとした。

「会ったらもっと、好きになりました」

時計の針の音が静かに響く。
私は、隣の坂口くんの顔を見ることができなくて、キーボードに指を落としたまま動けなくなってしまった。

「仕事終わるの、ここで待ってていいですか」

坂口くんが涼しい顔して言う。
ストレートな物言いに動揺を隠せない。

「ああ、うん。あと30分くらいで終わる」

私はかろうじてそう答える。

坂口くんはスマホを取り出していじり始めた。
私はいつもより集中できずに、仕事が進まなかった。
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