隣の部屋の新人くん
「はい」

少しの間。

「すみません、坂口です」

声の主は、意外な人物だった。
金曜の夜は、大抵飲み会が入ってるはずだ。

「どうしたの」

小さくドアを開けると、仕事終わりの坂口くんが立っていた。

「飲み会だったんですけど、会いたくなって」

そう言う顔は、たしかに少し赤い。
ほのかに香るアルコールの匂い。

坂口くんはドアの内側に入ると、力強く私の手を引いた。

「よく分かんないんですけど、無性に会いたくなって」

坂口くんの腕の中に強く引き込まれる。

「好きです」

耳元に響く声。

「俺、馬鹿だから、他に何て言うのか知らないんですけど」

そう笑った息が耳にかかる。

「好きです」

少し私を抱きしめる腕の力が優しく緩んだ気がした。

「うん、ありがとう」

私は坂口くんの腕をほどく。
やっと坂口くんの顔を見上げる。

「岡本さんは俺のこと好きですか」
「え?」

唐突に聞かれて、つい動揺してしまった。

「・・・逆に好きじゃないんですか?」

坂口くんの解かれた手が私の腰で止まってる。

「いいから上がりなよ」

私は照れて質問を流した。
< 40 / 55 >

この作品をシェア

pagetop