乙女チック同盟~私と学園の王子様のヒミツの関係~

 だけど女子たちは「やっぱりー!?」と盛り上がりだした。

「カッコイイよねー」
「顔もイイけど、やっぱり何と言っても硬派でチャラチャラしてない所がいいよね」
「うん。浮いたウワサも聞いたことないし、私生活が謎に包まれてるところがミステリアスでステキ!」

 私はチラリと八乙女くんの色白な横顔を見た。

 まあ、強いて言えば、の話だけどね。

 まあ、顔はカッコイイとは思うけど、しょせんは三次元。物語の中の王子様には敵わないんだから。

「それじゃ私、これで」

 私は八乙女くんの話で盛り上がるクラスメイトたちを尻目に、急いでカバンを背負った。

「若菜ちゃん、そんなに急いでどこ行くの?」

「本屋!」

 私は短く答えると、一目散に教室から駆け出した。

 何を隠そう、今日は私の大好きな小説家、春村フレデリカ先生の新作『いちごタルトは恋のお味』の発売日。
 
 今回の新作は、フレデリカ先生らしい、レースとリボンと甘いお菓子、そして女の子の夢がつまったケーキ屋さんの小説らしい。ああ、ウキウキしちゃう。

「ふふ、楽しみだなぁっ」

 自然とニヤニヤと笑みがこぼれてしまう。

 前回の和風のお話も良かったけど、やっぱりフレデリカ先生はこういうドレスとかお姫様とか、中世ヨーロッパ風のお話が良いんだよね。

 家族とか友達には乙女趣味とか少女趣味とかって言われちゃうけど、この趣味だけはやめられない!

 ああ、今回はどんな話なんだろう。

 考えるだけで足が弾んじゃう。

 今回も、フレデリカ先生らしいキラキラした乙女チックな話なんだろうな。イケメンキャラとの恋愛なんかもあったりして。

 胸をはずませながら本屋さんに入る。

「あ、あった」

 しばらく書店の中を探して、ようやく私は『いちごタルトは恋のお味』を見つけた。

 アニメ化したり、賞をとったりしたメジャーな作家じゃないからかな、新作だと言うのにフレデリカ先生の本は棚の一冊だけ。

 うむむ……これだけかあ。

 フレデリカ先生は乙女の中の乙女。素晴らしい作家さんなんだから、もっと入荷してくれてもいいのに!

 でもまあ、こんな田舎の書店に一冊でも置いてあるだけでもありがたいか。

 そんなことを思いながら、私はピンクの背表紙の本を手に取ろうとした。

 だけどその時、ほぼ同時に上から長い手がニュッと伸びてきて、私が取ろうとした本をパッと取ってしまった。

「ああっ」

 私のフレデリカ先生の本が!

 ひどい。私はこの日をずっと心待ちにしてたのに。一体誰が――。

 振り向くと、そこにいたのは少女漫画から飛び出してきたみたいな美少年だった。

 色白の肌に色素のうすい茶色の髪、すっと通った鼻筋に、切れ長のクールな目。

「八乙女……くん?」

 そこにいたのは、まさかのバスケ部のクール王子、クラスメイトの八乙女くんだった。
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