想妖匣-ソウヨウハコ-

 秋と麗は体育館の一件から関係がこじれてしまい、教室でも二人は話さなくなってしまった。
 麗は何度も話しかけようと手を伸ばすが、秋が避けるようにいなくなってしまう。麗は無理やり話しかける事が出来ず、すぐに引く。
 麗から逃げるように廊下へと出た秋は、自身の胸を強く握りその場にしゃがんでしまった。
 何でこんな事をしてしまうのか。なんで逃げてしまうようになってしまったのか。今の秋は何でも我慢してしまい、今にでも感情が爆発してしまうほど危うくなっていた。

 そんな中、部下の終わり。巴はいつもと同じく笑顔で秋へと声をかけた。

「神楽坂さん、片付けよろしくね」

 いつも片付けは秋に頼み、自分は練習と言いながら部員達と楽しく話をしている。

 顧問は練習が終わると一度体育館を出て行ってしまうため、部長である巴が顧問代わりになっていた。その状況を利用し、顧問が体育館を出て行った事を確認すると、巴は必ず秋の所に行き片付けを全て押し付けるのだ。

 秋は巴のその様子を見て、込み上げてくる怒りを抑えるため強く手を握るだけ。我慢に我慢を重ね、秋の瞳は黒く濁り冷静さを欠いていた。

 巴に言い返す事ができず、言われた通り掃除をしている秋。モップを握り、床を拭いている時。秋は巴達と話して笑っている麗を見た。その瞳は濁り、険しい表情だった。
 
「なんで麗ばっかり……」

 誰にも聞こえない程小さく呟き秋は、はっとなってかぶりを振った。

「馬鹿みたい。どうせ出来ないくせに……」

 自らを嘲るような表情を浮かべ、消え入るような声を発したあと片付けを再開する。

 片付けが終わったあと、秋はボールを持って体育館を出て行った。
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