想妖匣-ソウヨウハコ-

「夢は、あるんだけどなぁ……」

 青夏をちらっと確認し、朱里は大きなため息を吐いた。その様子を彼はやれやれと言う感じに肩を落とし、何かを考え始める。すると、朱里は何か気になったらしく、少しだけ顔を上げて彼を見上げた。

「青夏先輩は何描いたんですか? 見せてください!」
「なっ、おい!!」

 青夏の絵を見ようと朱里はバッと席を立つが、途中で腕を掴まれてしまい見る事が出来なかった。

「絶対にダメだ!」
「なんでですかぁ~」

 青夏は必死に止めており、彼女は絵を見に行く事が出来ない。
 必死そうな表情を見て、尚のこと気になってしょうがない朱里は、目を輝かせながら青夏にお願いする。

「ちょっとだけ! ちょっとだけでいいですから!!」
「絶対に駄目だ!」
「二人とも! いい加減にしなさい!」

 二人で攻防を繰り広げていたら、教室の前方から甲高い怒りの声が響き朱里は肩を大きく震わせた。
 その声の主は美術部の部長、黒井江梨花(くろいえりか)

「美術室は遊び場ではありません。真面目に描いてください」

 黒い髪を翻しながら注意をする江梨花の姿は、女の朱里でも見惚れてしまうほど綺麗。それに加え、成績は優秀でスポーツも出来る。誰もが羨む完璧な人だ。

「すっ、すいませんでした……」
「……」
「まったく、しっかりしなさい。全然絵が進んでいないじゃない。これで遊んでいるとは、やる気がないのね」
「いっ、いえ。そういう訳では──」
「言い訳は結構です。いいから早く進めなさい」

 怒りを顔に滲ませ、江梨花は鋭く言い放ち、自分のキャンバスに目線を戻し描き始めた。

「ひぇ、怖い……」

 朱里が恐怖で身を縮こませている横で、青夏は疑わしい視線で江梨花を見ている。彼の視線に気づいた朱里は、きょとんとした顔を浮かべた。

「あの、どうしたんですか?」
「──いや、なんでもねぇ」

 何か言いたげな目を浮かべながらも、青夏は自分のキャンバスの前に座り絵を描き始める。
 朱里は青夏の反応に疑問を抱きつつも、自身も早く課題を終らせなければと思い椅子に座り直した。
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