想妖匣-ソウヨウハコ-

「ご依頼ですか?」

 部活の時間になると、江梨花は当たり前のように青夏の隣にリーゼルを置き一緒に書き始める。青夏もそこから動かないで淡々と作業を進めていた。
 そんな二人の中に入り込めず、朱里は一人で何度も消した痕があるキャンバスに目線を送る。

 そんな日々が続き、朱里は毎日ため息をついていた。自分から行動を起こせばいいのだが、そんな勇気もなく。かと言って、このままでは精神的に持たない。

 週に一度、部活が休みの日があり。そんな日はいつも季津と下校していた。

「はぁ……」
「まったく、今日何回目の溜息なのよ」
「数えるのも途中でやめた」
「途中まではしっかりと数えていたのね……」

 呆れ気味に李津は朱里に答え、なんと言葉をかけようか悩み天を仰ぐ。
 今日は晴天で、雲一つない。普通ならこのまま寄り道して帰りましょうとでも言いたくなるが、そんな雰囲気では無いため誘えない。

 朱里がここまで落ち込んでいるのは、学校の噂で青夏達がお似合いカップルとなってしまっているからだ。その噂は李津の耳にも届いている。

 歩きながら、李津はなんともないような口調を心掛け問いかけた。

「あんた、最近寝れてるの? ちゃんと疲れ取れてる?」
「う~ん。ちょっと……」
「こっちがため息つきたいわよ。大体気になるなら直接聞きなさい。うじうじしていたってなんにもならないでしょ?」

 李津のストレートな言葉に、朱里は何も答えられず俯く。思わず足を止め、肩にかけている鞄の持ち手をきゅっと掴んだ。

「聞きたいけど、でも……」

 その後の言葉が続かない。
 立ち止まった朱里は一歩前で、季津も立ち止まる。言葉が続かなくなった朱里に対し、今度は李津がため息を吐く。仮に、今の晴天が曇り。雨が降っていたのなら、この憂鬱な気持ちも一緒に洗い流してくれたのだろうか。そう考えざるにはいられない。
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