想妖匣-ソウヨウハコ-
 朱里と李津は学校の教室で、昨日の小屋について一つの机を挟みながら話していた。

「昨日のは一体なんだったんだろう」
「噂が曲がって伝わったって感じ?」
「う〜ん。でも、嘘とも言いきれないよね。実際いたんだし」
「そうなのよね」

 明人が何故自分達を帰してしまったのか、二人は今も理解できず悩ませていた。
 明人の説明はまるで都市伝説のような話だったため、二人は自分達の目で見たにもかかわらず信じきれていない。

「結局は自分で何とかしろって事なのかねぇ」
「…………李津、私!!」

 朱里は季津の言葉に、今までの自分の光景を思い浮かべ、拳を握りはっきりと言葉を放とうと口を大きく開く。

 その時、朱里の後ろから男性の声が聞こえた。

「なんの話してんだ?」
「──あ」
「がんばっ──えっ。せっ、青夏先輩?!」

 朱里が決意を声に出そうとしたのと同時に、青夏が後ろから声をかける。その声に彼女は思いっきり驚き、思わず椅子をガタッと動かし大きな音を出してしまった。

「なっ、なんだよ」

 椅子の音だけでなく朱里の声も結構大きく出てしまい、その声に青夏は酷く驚いていた。朱里自身も目を見開きその場に固まっている。

「ど、どうしたんですか? ここは二年の教室ですよ」
「あぁ、知ってる。これを渡すように頼まれたんだ」

 李津が青夏に尋ねると、右手を前に出し朱里に一つの資料を渡す。
 その資料には、様々な水彩画の絵や文字がポイントのように書かれている。先日美術部の顧問にお願いしていた、水彩画の資料。それを「ほれ」と言いながら手渡す。

「あっ、ありがとうございます」

 表紙を見ただけで喜び、嬉しそうに頬を染めながら彼の目を見てしっかりとお礼を伝えた。

「いや、偶然ここの近くを通りかかったら頼まれたんだよ」
「あ、そうだったんですね!」

 朱里は渡された資料をぺらぺらと捲りながら目を輝かせ楽しげに見始めた。まるで、新しいおもちゃをもらった子供のように無邪気な顔を浮かべている。その姿を青夏は、愛おしそうに優しく微笑みながら見下ろしていた。

「そんなに水彩画好きなんか?」
「え? いえ、そういう訳では無いんですけど……」

 朱里は恥ずかしいそうに資料で顔を隠した。それを青夏は、優しい笑みからイタズラっ子のような笑みに切りかえ、彼女を見続ける。
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