俺が優しいと思うなよ?
獣と恋心


「考えてみればそうなんです。おかしいと思いませんか」

成海さんとあの出来事からの翌週。
私は給湯室でコーヒーを淹れる倉岸さんを捕まえて、あの時から「あれ?」と浮かんだ疑問を打ち明けた。
「例えば身内のパーティーに招待された場合、倉岸さんなら会社の同僚を同伴させますか?それともご自分の婚約者を同伴させますか?」
彼女は「一体どうしたの?」と、目を丸くさせた。
「三波さんが質問なんて珍しいわね」
そう言ってクスクス笑いながら棚にあるスティックシュガーを取り出す。
私は少し面白そうに笑う彼女に、どうしようもなく悩んでしまったことに恥ずかしさを感じてモゴモゴと口を開いた。
「な、なにぶん経験のないことでどうしたらいいのか……。実は、成海さんからご実家のパーティーに一緒に行くように言われたんです」
「成海部長のご実家は自営業……でしたわね」
と、倉岸さんの言葉に私は「あっ」と口を塞いだ。
──もしかして、倉岸さんは成海さんが大政建設の御曹司ということを知らない……?
私は動揺を隠すように両手をヒラヒラさせて振る。
「は、はい。でも一般的に考えれば、身内のパーティーはプライベートなので婚約者と出席するものだと思うんです。何故、私なのか……」
と、理由がわからず困るとばかりに渋い顔をした。

じっと私を見ていた倉岸さんは「やっぱりね」とニコッと笑った。
「成海部長の恋人説は間違いだったんじゃないかしら。三波さんの会った女性も婚約者じゃないと思うわよ」
「え、まさか……そんな」
何を根拠に彼女はそう言うのかわからないが、成海さんを親しそうに「柊吾」と呼ぶ二条詩織さんが頭から離れなかった。

「でも、成海部長が三波さんをプライベートでお誘いするなんて。ちょっと応援したくなっちゃったかも」
と、ふふっと笑った倉岸さんに、私は首を傾げた。
「何の応援なんですか。成海さんが私を連れていくのは、あくまで建築デザイナーとして紹介するためですよ」
そんな説明にも、彼女はどこか嬉しそうだった。
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