エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

 不気味でとても恐ろしいけれど、ここで泣いたり騒いだりするのはますます彼女たちの反感を買う気がして、私は粛々と画鋲を取っ手から剥がす。そして、今度こそ着替えようと静かに扉を開けた。

 その時、はらりと小さな紙切れが足元に落ちる。どうやら扉に挟まっていたらしい。

 自然と目で追った私は、そこに書かれていた文字に頭の中が真っ白になった。

【勘違い女】

 殴り書きだが、女性の文字だ。書いたのは誰? ここにいるの?

 周囲の目を確認するのも怖くなり、実際には聞こえないけれど、ここにいる皆が私をクスクス笑っている、そんな妄想に取りつかれる。

 私はその紙を拾うことさえできずに、恐怖に耐えながら必死で着替えを済ませ、足早に更衣室を後にする。

 それでも女性社員たちの悪意のこもった視線や嘲笑の声が追いかけて来る気がして、無我夢中で会社の廊下を駆け抜けた。

『決めるのは、観月さんです。どうすれば、より多くの人を幸せにすることができるのか』

 数時間前、紫倉さんに投げかけられた言葉が、頭の中をぐるぐる回る。

 大和さんが会場で挨拶をしている最中、『ちょっといいですか?』と社長室に連れられていった私は、そこで彼に色々な助言をもらったのだ。

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