エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました

『この派手な時計、つけなきゃダメかな。俺の趣味じゃないんだよな。ああ、ゴルフコンペで優勝なんかするんじゃなかった』
『その時計を景品に選んだ軽部(かるべ)様がお見えになる際は、とりあえずつけておいた方がいいんじゃないですか?』
『そうか……俺の美的センスは『許せない』と言っているが、仕方ないか』

 先輩方が絶賛していた腕時計について、数日前に社長と交わした会話だ。もしも彼が直接彼女たちに時計のセンスを褒められたなら、後で私に泣きついてくるに違いない。

『観月。俺って、自分の意思でこんな時計を選ぶヤツに見える?』

 捨てられた子犬のような目をして、そんな感じのことを言うだろう。そして私は、こっそり「かわいいなぁ」とときめくのだ。

「けど、秘書の趣味だけは悪いよね~。なんでわざわざあんな地味子を総務から引っ張ってきたんだか。あの子、会社に来るときはだっさいスニーカー履いてるの知ってる?」
「見たことある~。秘書としての自覚が足らないよね。いつなんどき誰に見られてもいいように、足の痛みに耐えてパンプスを履いてこそ、立派な秘書なのに」

< 2 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop