カタブツ竜王の過保護な求婚

 ほっと安堵の息を吐いた夫人は立ち上がると、辞去の挨拶をして去って行った。
 その顔に一瞬浮かんだ厭な笑みを、物思いに沈んだレイナは見ていなかった。


「レイナ様、いかがなされました?」


 入れ替わりに戻って来たアンヌが心配して問いかける。
 今日は二人だけで話がしたいと請われ、自室に招き入れて皆には席を外してもらっていたのだ。


「何でもないの。ちょっと男爵夫人から、びっくりする話を聞いただけ」

「ですが、あの方は……」

「ええ、わかっているわ。わかっているの……」


 警戒するアンヌの言葉を遮り、レイナは答えた。
 まるで自分に言い聞かせるように。
 そして窓辺へと行くと、外の景色を眺めた。

 葉擦れの音が、さわさわと耳に柔らかく響く。
 だが、体の奥深くでは、どろどろとしたものが蠢いている。
 胸が苦しい。お腹が痛い。カインを想えば感じる、痛みと苦しみ。
 込み上げる涙をレイナは唇を噛みしめてこらえた。やるべきことをやると決めたのだから、落ち着いて考えなければ。



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