シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎



菜摘さんの家で3人で座っている。

穏やかな午後。
大きな窓から、外の木々を通ってきた風の匂い。

左から一子、亜紀、櫂。

最近櫂は、菜摘さんに「ありがと」とか、「わりぃ、ごめん」とか少しずつ話すようになってきた。

一子と亜紀の前では、もうあの時の姿が嘘のように櫂はご機嫌だ。


「一子、あっちむいてて」


櫂が亜紀にキスした。
ふわって触れてるくせに、でも、もっとしつこい熱を孕んだ、所有的なキス。

一子があっちを向いたまま、ためいきをついた。
櫂はさらに亜紀の肩に手を回して、引き寄せる。
彼の手は強くて、あつくて、この先を感じさせる。


「ぐわ〜ってなるんだよ、一子には分かんないかな」

「家でやんなさいよ」

「家は無理」

「ヤレヤレ」


櫂はずっと、子供がいっぱいいるところでこんな気持ちどうしていいか分からなかったらしい。
思っちゃいけないかな、とか。
持ち込んじゃいけない感情かな、とか。

でも気づいたんだって。


「全部大きなくくりで、愛だよね? 」

「ふん」


と、一子が鼻で笑った。


「弥勒なんてもっとひどい。
子供がいようが、ベタベタ、ベタベタ、」


そういえば、あまり話さないから気が付かないが、一子は両親を菜摘と弥勒って名前で言う。お母さん、とか呼んでるのを聞いたことがないな、と亜紀は思った。


「すごいよな、弥勒。
かっこいいよな、大人だ」

「あとは不動おじさんだけだ」


と一子がボソッと言った。

今頃、家でみどりさんとさっき渡した亜紀のプロフィールを見ているはずだ。


櫂は先日、やっと亜紀の父親と『和解』したのだ。
櫂は亜紀の家に、何度も何度も足を運んでくれた。
亜紀の父親は、やっぱり、お前だったのか、と憤慨した。女子校にまで入れて遠ざけたのに、と。

亜紀を傷つけるから、とか、金持ちだから、とか、オレ様だから、とか。
櫂がきちんと分かってもらえるまで何度も話をした。
最後には、顔がイケメンすぎる、と反対するので、櫂が、

『それはなおしようがないので、我慢してください』

と言ったら、もうケチをつけるところも無くなって、燃え尽きたように何も言わなくなった。

あとは櫂のご両親だ。
ノートの子か、と不動が厳しい顔をした。素性が知りたい、とプロフィールを亜紀に書くよう言った。

さっき、それを菜摘さんが持っていって、櫂のお母さんと今ごろ、見ているはず⋯⋯
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