春は微かに
先生、人生相談です。





「先生に相談があるんです」




真剣な眼差しを向けながらも少し幼い顔立ちをしている彼は、黒い学ランを上手に着こなしていた。まだ1度も染まっていない綺麗な黒髪。前髪は軽くセットされていて目にかかるくらいの長さで整えられている。


左耳には3連になっているシルバーのフープピアス。男の子にしては白く透き通った肌で、見た感じ清楚で優しそうな雰囲気の漂う彼のピアスにはギャップを感じた。



動く度に微かに漂う、爽やかなシトラスの香り。



……あぁ、この匂い。

鼻を掠めるその香りに、想い出される記憶。あの時の私はまだ幼くて、行動の善し悪しなんてものは付けられなくて、ただ想いのままに突っ走って、幾度とあの人を困らせていた。



今になって振り返ると、随分と迷惑な生徒だったと思う。もう、何年も前のことだ。



「はい、赤塚くん。どうしましたか?」



向かいの机に座って頬杖をつく彼の名を呼べば、小さく微笑まれた。それからひとつ、ふっと小さく息を吐いた彼が、私に言ったのだった。






「おれが先生を忘れるには どうしたらいいですか?」



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