アンチテーゼを振りかざせ



ジョギングを終えた俺は、そのまま、あの女の行きつけであるコンビニへと向かう。


幸い、俺が働いてた時にシフトがかぶっていた人間は、この早朝には入って居ないらしい。
見知らぬ店員ばかりだった。


商品の配置を分かり尽くした店内で、ある2つを手に取ってそのまま足早にレジへ向かう。


"この2つ、どこがそんな美味しいの。"

"……え?ビールは喉というか心に沁みるし、サキイカは食感も味も全部好き。このコンビネーションは100点でしょ。"

"ふーん。"

"何?苦手なら無理しなくて良いよ?"

"…紬、馬鹿だなあ。"

"何が。"




購入し終えて、コンビニを出ながら昨日の会話の続きを思い出すと、思わず口角が上がってしまう。


急に馬鹿と言われて、紬は不服そうだった。

俺は確かに、今までお酒もそんなに飲んでこなかったし、それに付随して"おっさんメニュー"と呼ばれるおつまみも、あまり食べてこなかった。


でも、昨日あんまり幸せそうにそのコンビを愛でる紬を見て、それらを口にした。


"大事な人の好きなものは、気になるでしょ。"

"…ふーん。"


ぶっちゃけ、食べた結果そんなに凄く好きにはなりそうに無いけど。

可愛い彼女の好きなものが気になるのは当たり前じゃん。

そう言ったら、顔を真っ赤にするくせに、気にしてないフリで視線を逸らされる。

誤魔化すように再び缶ビールを口にする紬に、理性を最大限に働かせることに注力する羽目になった。





なんかもう、可愛いしか出てこなくて自分の重症具合に気づいてはいるけど。

今だってほんの数十分離れただけで、あの干物女にもう会いたくなってるから、とっくに手遅れだとは思う。


袋も貰わず剥き出しのままの缶ビールとサキイカを抱いて、苦笑いしつつ再びマンションを目指した。


< 165 / 203 >

この作品をシェア

pagetop