アンチテーゼを振りかざせ



「…梓雪。」

「ん?」

「…私のこと見つけてくれて、ありがと。」


ずっと、自分を閉じ込めていた。

だけど好きなものを好きだと伝えられる
存在の心強さを知った。


一緒にきっと、これからも隣で歩いてくれる。

この男のことが、すごくすごく、好き。



さっきとは言葉が変わったお礼に、男はまるごと受け止めるみたいな満足そうな笑顔を見せて。


「他に取られないか、割とずっと必死だった。」

と、それも初めて耳にする事実を呟いた。


「…梓雪。」

もう一度名前を呼んで、意を決して背伸びして顔を近づけたら、全て察したようなあどけなさの残る笑顔と共に腰を少し、かがめてくれる。


春の風に包まれた穏やかな夜。

唇に感じた優しい熱に、ちょっと泣きそうになって、そっと目を閉じた。




ちひろさん。 

ロマンチックな恋の始まりは、
私の傍にも、案外あったかもしれないです。






These

《恋に落ちる瞬間のロマンスは、お伽噺の中だけ。》


▶︎(キラキラの夜景、運命的な出逢い、王子様の言葉、確かに現実世界にはなかなか見当たらないですが)


"_____清楚つくりこむの、やめたの?"

"………は?"


舞台は居酒屋、

手には生ビールのジョッキ、 

始まりの言葉は何ひとつ、甘さが無くても。




「コンビニで会って、居酒屋で再会して。
馴れ初めとして考えたら、結構、運命じゃん。」

「…そう…?」

「うん。結婚する時、自慢できるほどには?」

「そういうの軽く言わないで。」

「軽くどころか凄い本気だけど。」

「……、」

「何その顔、可愛い。」


一緒に語り合って笑顔になれたら、
それはもうロマンスだと主張してOKです。


fin.




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