この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~

隠れ家



 康太や輔と別れた静は、小松原の屋敷からそう遠くない番町に来ていた。

「マスター、遅くなってごめんなさい。」

「やあ、静ちゃん。大丈夫だよ。時間はたっぷりあるから。」

「すぐに着換えてきますね。」

低層の高級マンションが立ち並ぶ一角に、蔦に覆われた古風な建物がある。
ビルの前の通りは並木になっているし、パリの路地裏にあるカフェのようだ。

店の奥には小さな和室があって、静は自由に使わせてもらっている。
この着替えの出来るスペースで静は生まれ変わるのだ。

 藍色の絣の着物を脱いで、薄いベージュのセーターと黒のパンツに着替え、
黒のカラーコンタクトを外して丸いフレームのメガネをかける。
静の瞳は、母親に似て青味かかっている。いつもはコンタクトで隠していた。

纏めた髪は下ろし、緩い三つ編みにして横に流す。
店のデニム地のカフェエプロンを着けたら、別人のような静の出来上がりだ。


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