この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
 
 仕事のために、急遽ロンドンから帰国した竜平は、 
マンションではなく日本に帰った時だけ利用している
赤坂のホテルへチェックインしようと空港からタクシーで乗り付けた。

すでにマンションは手離していた。
女々しいかもしれないが、短くも濃かった静との思い出の場所で
生活するのは辛かったのだ。

飛行機の遅れと寒さで疲れていた竜平は、
コートの襟を立て足早にフロントへ向かった。

すでに日付が変わる時間だというのに、ロビーにはまだ人の動きがあった。

「12月25日か…。」
 
竜平は独り言ちた。
日本ではこの日を境にクリスマスツリーは片付けられてしまう。
ロビーには外国人観光客が喜びそうな、和風の正月飾りの準備がされていた。


特に、玄関の正面奥に見事な花車が置かれていた。
大胆な配色に視線が引き寄せられる。

古風な網代車を思わせる黒い大輪(おおわ)(ながえ)
そこに松竹梅を巧みに配し、洋花と和花を大胆に組み合わせている。
まさに新年を迎えるのに相応しい大作だ。

思わず竜平も足を止め、見とれてしまう。


深夜にも関わらず、花が活けられる様子を見つめる観光客らしき姿もあった。
皆、興味深げだ。写真を撮る姿もあった。

大きな花車を生けているのは、栗色のボブヘアの女性のようだ。
白いシャツにスリムなパンツスタイルで
自らもキビキビと動きながら、スタッフに指示を出していた。
黒の長いカフェエプロンのウエストはキュッと締められていて
若々しく華奢な感じがする。

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