―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
ランチから戻った田淵は、いったい龍道コーチはどういうつもりなのだろうと首を傾げる。
まさか本気で付き合いたいのか、それとも親切で扱いやすい透子を利用しているだけなのか。

こんなことならとっとと透子にアプローチをかければよかったと後悔する。
彼氏はいないようだし、透子と一番仲のよい男で、仕事とはいえ一番多くの時間を一緒に過ごしていて、ついでに透子の周囲で一番いい男は自分だという自負もあった。
そろそろ関係を前進させようと思っていた。
なのに突然「ゲイよね」と、なぜかとても嬉しそうに言うので調子が狂ってしまった。
相変わらずのボケっぷりが可愛くて、ついそういうことにしてしまった。
告白したときのサプライズにもなるだろうとか、そんな余計なことまで考えて。

この部署に配属される直前まで彼女はいた。
それから彼女がいないのはただ好きになるほど気になる女性がいなかっただけだ。
それが透子と同じ部署に配属されて透子の隣の席になり、一緒に仕事をしているうちに、気づけば好きになっていた。
地味にゆっくり自分でも気づかぬうちに惹かれていった。

透子は誰に対しても態度が変わらず、頼まれごとは自分の都合を二の次にして引き受けてしまう。
はたから見ていると「なんでそんなのやってあげちゃうわけ?」と、舌打ちしたくなることも多々ある。
人に押し付けられた仕事で残業になるので手伝うと言えば必ず「大丈夫。田淵君は早く帰って」と笑う。
全然大丈夫そうではないので手伝うと「ごめんねー」と本当に申し訳なさそうに眉毛を下げる。
「いいよ、ビール1杯で」と言うと今度は嬉しそうに「ありがとう! じゃあ早く終わらせる」とクシャっと笑う。
透子といると田淵はとても楽しくて安らかな気分になる。
< 82 / 130 >

この作品をシェア

pagetop