庵歩の優しい世界


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 琴吹さんの部屋から、男の声がして落ち込む。もしかしたら彼氏がいるのかもしれない。


耳を澄ませていたわけじゃないけれど……


「庵歩さ、やっぱ変わったって。宅飲みに誘ってこないのは、ともかく、誘っても来ないって、なんからしくない」


みたいな会話が聞こえてきた。


『みたいな会話』とぼかしている割に、真実に非常に近い記録を残してる自分が怖い。



このマンション、防犯対策はバッチリなのに隣の部屋の音は筒抜けだからだろう。

たぶん防犯対策に力を入れたせいで、その皺寄せが壁の薄さに現れたのかと思う。



 琴吹さんが宅飲みに誘わなくなったのは、俺とナツが頻繁に琴吹さんの家に寄せてもらうからじゃなかろうか。


頼りない男と5歳児の生活はさぞ恐ろしいのだろう。
なんだかんだ心配で、気にかけてけくれているのかもしれない。


しかし、いくら俺が琴吹さんに構って欲しくても、彼女が現状それを良しとしてくれたとしても、大切な交友関係にヒビを入れるのは、好ましくない。



けど………。

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