嘘が私に噛み付いた
嘘が私に噛み付いた

「いいねいいね!暇だし付き合っちゃお!」

何か口車に乗せられたような気は、した。
しかし酔いが回りきった頭では何も考えれなかった。というか、そもそも暇だしってなんだ暇だしって。

「オーケー、言質取ったからな」

そうして目の前の男がしてやったりだという風に笑ったのを見た。
そこで何かおかしいと思わなかった自分も大概だが。

「付き合ったんだから、お前のことは俺が送っていくから。帰り道で、変な男に引っ掛かったら、お前可哀想だろ」

そうして腕を掴んで立たせられる。
ふらりと揺らいだ身体ごと腕を掴んだ先の男の胸にストンと落ちる。

ほんのり薄く香る香水の匂いに顔を上げると、端正なその顔が酷く安心したように歪んだ。

目の前にいるこの同期入社の篠塚こそ、私に取っては食えない飄々とした男であり、変と言えば変な男なので、帰り道の前にすでに変な男には引っ掛かってる気がする。

「……なんでこんなことに…?」

ポツリとこぼした言葉に蓋をする様に、パッと手で口を塞がれる。

「浅見が気分悪いようなので俺家まで送ります。皆さんはゆっくり飲んでて下さい」

口々に聞こえる大丈夫かと心配する声と、よろしく篠塚という声。その中から、ひとついつも聞こえる声を拾い上げる。

「……篠塚、俺が送るよ。いつも浅見を送ってるのは近所の俺の役目だったし」

ぴくり、と肩が跳ねる。
そんな私を庇うようにギュッと腕を掴む手に力が篭ったのが分かった。
< 1 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop