嘘が私に噛み付いた
前日談

それはある日の昼休み。
休憩所で缶コーヒーを買ってそのまま近くの椅子に座って、俺は一息吐く。

すると目の前を通り過ぎた女性も同じように缶コーヒーを買って、そのまま少し離れた席に座るのが見えた。同期の浅見だ。

随分足取りが重いな、と何となく浅見を遠巻きに見つめながら思う。

明るいアッシュブラウンの髪を後ろで一括りにしているが、いつもよりも髪がほつれており、全身から私疲れてます!というオーラがプンプン出ている。

入社4年目、そろそろ中弛みしてみんな疲れてくるよな、と勝手に同情する。今度他の同期も誘って飲みに連れてってやるか。

どこがいいかな、と勝手に色々リストアップしていると、今度はひとつ上の先輩である遠藤さんが目の端にうつる。
遠藤さんは何を見つけたのか、進んでいた歩みを急速に方向転換して、俺がさっきまで見ていた方向、つまり浅見めがけて小走りに近づいていく。

遠藤さんがトンと浅見の肩を叩いた。
それに浅見がビクリと傍目にも異常なくらい驚いて振り向いたのが見てとれた。

その反応にほんの少しの違和感。
けれどすぐに、疲れてたから周りが見えていなかったんだろうと思い直す。

そうしてしばらく二人は何事かを話していたが、そのうち遠藤さんが浅見の頭をポンポンと2回軽く撫でたのがわかった。

出た、頭ポンポン。
こんなことをやる男は高確率で相手の女のことが好きだ。というか、男はそもそも好きでもない女に過度なボディタッチはしないものだ。

それに加えて遠藤さんの場合は、打算的に良い先輩を演出してやっているのだ、と思う。それが吉と出るか凶と出るかは見ものだな、と浅見の反応を伺う。

< 6 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop