恋の心音
「レスリーです。よろしく」

無愛想に言ったものの、この家の人間にはすでに術をかけてあるため温かく迎え入れられた。しかし、両親と奏、そして澪と自己紹介をした際、レスリーが初めて知ったことがあった。

「初めまして」

澪は微笑み、そう口を動かしていた。しかしその口から言葉は出ていない。代わりに手を動かしていた。右手の指を閉じながら上げ、人差し指を伸ばす動作をした後、両手の人差し指を立てて左右から寄せる。ジェスチャーのような動作に、レスリーは「は?」と首を傾げた。

「澪は生まれつき耳が聞こえないの。だから、手話や筆談で話すんだ」

奏にそう言われ、レスリーは「そうなんだ」と返す。何も感じなかった。哀れだとも、不便そうだとも、何も感じなかった。どうでもよかったのだ。

「ずっと手話を見るのも面倒だし、こいつの魂を先に狩ろうかな」

そんなことを考えていたレスリーだったが、その考えは澪を知れば知るほど薄れていってしまった。
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