残念御曹司の最初で最後の恋物語
――はじまりは遅刻からだった。
「やばい! もう、講義がはじまる!」
僕は、かばんをひったくるように抱え、転がるように寮を飛び出した。
これはやばい。史上最強にやばい。
寮から大学までは徒歩5分。
パリの美しい街並みを馬のごとく全力疾走しながら、腕時計を確認。
朝一の講義の時間までは―――
「5分だと?!」
ペリ大学に語学留学して一週間。
実家では時間になれば必ず誰かが叩き起こしてくれるが、一人暮らしとなればそうはいかない。
“残念な御曹司”という肩書きと、留学生というだけで目立っている手前、情けない噂は避けたいところだ。
僕は足の動きをさらに加速させて、脇目も振らずに大学の正門に飛び込んだ。