研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜
「学会発表に向けて頑張るしかないんじゃない?」

初めて気付く。

「理仁くんの全てでしょ、それが」

高尾さんが微笑む。

そう、理仁は頑張ってる人が好きだと言った。

「私に、まだ望みありますかね」

高尾さんの穏やかな瞳を覗く。

「たぶん、理仁くんがただの美人好きなら、もうとっくにその子と付き合ってるでしょ」

そう言ってビールを飲み切った。

「焼酎の出汁割り飲も」と微笑む。

なんで私、勝田エリーと同じ土俵で戦ってたんだろう。

何を比べていたんだろう。

もしまだ私に望みがあるなら、年明けの学会発表で足を引っ張るわけにはいかない。

「ありがとうございます。頑張ってみます」

そう言うと、また高尾さんは私の頭を撫でた。

まだまだ家帰って論文の続きをやろう。

「そうだ、これ要らないかもしれないけど」と高尾さんがボロボロになった冊子を取り出した。

「俺が同じ国際学会で発表した時の資料。探してみたらあったから」

そう笑う。

たくさんの練習をした跡。

「いいんですか、これ」

そう言って受け取る。

「大丈夫、緊張しない学生なんていないから」と笑った。

早めに店を出る。

駅前まで来て、別れ際。

はらりと手を振りながら、「こんなに頑張ってる環ちゃんは、十分いい女だよ」と高尾さんは言ってくれた。
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