研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜
そこでハッとした。

「勝田エリー!」

抱き合ってた体をグイと離した。

「勝田エリーは!?」

呆然としてる顔。 
そして、思い出したように「ああ」と呟いた。

「いたね、そんな人」

信じられない。

なんだ、その「自分には関係ありません」みたいな口調。

「いたね、じゃないよ!どうなったの、勝田エリー!」
「とっくに振ったよ」

涼しすぎる顔。

「ほら、沼で大喧嘩した日の後」

思い出したくない、黒歴史。

あの後・・・?

たしかに、言われてみれば、その後から論文詰めの生活で勝田エリーの姿を見る機会がなくなった気がする。

「環に言われて、たしかに勝田さんのことは弄んでるって言われても仕方ないなと思って」

理仁が思い出したように残されてたタルトに手を伸ばす。

「『知らない』って言うより、知っても知っても好きにならないってことなんだなって」

口をモゴモゴさせながら「あんなに美人でいい子なのにね」と笑った。

すごい他人事の口調。

私には「いい女」って言ったくせに。

私もタルトを取りに行く。
また隣に腰を落として食べる。

美味しい。

なんだろう、悩んでた日々を返して欲しい。
たくさんの涙を、たくさんの苦しみを。

拍子抜けする。

「もしかして妬いてた?」

人の気持ちを馬鹿にしてるような笑い。

理仁を睨みつける。

理仁は私の頭を撫でて、そしてすべてをうやむやに誤魔化すキスをしてきた。

不思議なもので、たったそれだけで悩んでた日々がパッと消えてなくなるようだった。
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