身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「ごめんね、冬真」
もしかしたら冬真は口にしなかっただけで、本当はずっと不思議に思っていたのかもしれない。
自分には〝パパ〟がいないことを……。
冬真の気持ちに気づいた私は、ただ冬真のことをぎゅっと抱き締めることしかできなかった。
その夜。
冬真の寝かしつけを終えてから残りの家事をしているときも私の気分はずんと重たかった。
冬真の前ではなるべくいつも通りに振る舞っていたけれど、ひとりになるとやっぱり落ち込んでしまう。
冬真に父親がいないことはもう仕方のないことだし、その覚悟を持ってひとりで産んで育てると決めたはずだ。でも、実際にああやって泣かれてしまうと心が痛む。
どうすればいいのだろうと考えたところで答えなんてないし、私はこれからもひとりで冬真を育てていくしかないのだから……。
〝結婚したいと思ってるよ。美桜と、それから冬真と家族になりたい〟
数日前に言われた柊一さんの言葉をふと思い出す。でも、すぐにそれをかき消すように首を横に振った。
今さらだよ、もう……。私たちは前みたいには戻れない。