愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
ママの作るお酒は美味しい。
やけくそだったのもあって、いつもより早いペースでお酒を飲んだら頭がふわふわとしていい気持ちになってしまった。

自分の中のモヤモヤを日下さんに伝えることができた。日下さんとの仲は何も進展していないけど、今はこれで十分だと思う。

「やだ、芽生ちゃん寝てない?」

ママの呆れた声が耳に響く。
やだなあ、寝てないってば。
こんなところで寝るわけないじゃん。
そう思ったのに、そこからママの声は子守歌のようにふわふわと頭の中を巡り、やがて聞こえなくなった。

「もー困った子ね」

ママがため息をつく。

「ママ」

「なあに、暁ちゃん」

日下はグラスを傾けながら何かを考え、そしてゆっくりと告げた。

「前に芽生が香苗に似てるって言ってたけど、全然似てないよ」

「そっか、ごめんね」

「似てないけど、……いい子だ」

日下は隣で眠りこける芽生に目をやる。
無防備に眠る芽生の垂れた髪の毛を掬って耳にかけてやった。

「そうね、アタシもそう思う」

「……俺にはもったいないよ」

呟くような日下の言葉に、ママは返事をする代わりに新しいグラスを置いた。

「この一杯はアタシの奢りよ」

日下は小さく微笑むと、そのグラスに口を付けた。

今宵はしっとりと更けていった。
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