愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
翌日、俺は衝撃を受けることになる。

「急性骨髄性白血病でね、余命半年だって宣告されちゃった」

そう言いつつも、いつもみたいにニッコリ笑う香苗。俺は耳を疑った。

「……え、冗談だろ?」

「冗談でこんなこと言わないよ」

俺達は大学四年生になったばかりで就職活動真っ只中だ。つい先週だって、金木犀でチビチビと飲みながら、次は最終面接だ頑張ろうねと話したばかりだ。きちんと就職してお金を貯めて、これからも二人でずっと一緒にいたいねと語り合った。

なのに。

「だからね暁くん、私と別れてください」

香苗は何でもないように平気な顔をしている。動揺しているのは俺だけみたいだ。

「……そんなの嫌だ。俺は香苗の力になりたい」

振り絞って訴えたのに、香苗は首を横に振る。

「暁くんはさ、まだまだ未来があるんだから。好きなことをしなよ。好きな子見つけて幸せになって」

「嫌だ。何でそんなこと言うんだよ」

「……だって、仕方ないじゃない?」

「嫌だよ……」

香苗だけが納得していて俺の気持ちは宙にさ迷う。

香苗と別れるなんて嫌だ。

香苗は泣かないのに、俺だけが泣いた。
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