愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
俺に向けられる好意が気持ち悪い。
むしゃくしゃする。
俺は好かれるような人間じゃないのに。
何だっていうんだ。
俺の心に深く入ってくるな。

──私が死んでも前を向いて生きるんだよ。笑ってね。

ふいに香苗の言葉が頭を過る。
笑ってるよ、俺は。
ちゃんと笑えてるだろ?

──楽しそうに笑ってください。

芽生に言われた言葉が胸を締め付ける。
ずっと針でチクチクと刺されているように、俺の中に居座り続けている。

「やだ、芽生ちゃん寝てない?もー困った子ね」

ママの呆れた声に芽生を見やる。
ほんのりピンクに染まった頬はチークをのせたかのように可愛らしく、俺の心は自然と緩んだ。

乱れた髪を耳にかけてやると、うんと小さな吐息が漏れた。

香苗とは違う。当たり前のことなのに芽生を見ているとどうしても香苗を思い出してしまう。逆に言えばそれくらい芽生のことを意識してしまっているということだ。
芽生はいい子だから。

「本当に、俺にはもったいない」

酒を飲んでごまかしたけれど、今日ばかりは全然酔えなかった。

「ねえ暁ちゃん、芽生ちゃんはアタシのお気に入りなんだけど、暁ちゃんに譲るわ。特別だからね」

ママの言葉は心地よく胸に沁みていった。
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