愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
古い卒塔婆と交換をし、花を活ける。
ろうそくと線香に火をつけると、ゆらゆらとろうそくが揺れた。火が消えてしまう前に誰からともなく墓前に手を合わせた。

「暁くん」

香苗の父親が俺を呼ぶ。

「はい」

「まあ、なんというか、香苗が亡くなってもう三年だ。毎年お布施も君に任せてしまっているけど、そろそろ家で引き取ろうと思うんだよ」

突然の申し出に、言っている意味がまったく理解できずにその場で固まった。

「暁くんが香苗のことを想ってくれてるのは十分承知している。だけどね、そろそろ君も、香苗に囚われずに生きてほしいんだ」

「囚われてなんか……」

「いや、非難しているわけじゃないんだ。勘違いしないでくれ」

「暁くん、香苗のこと愛してくれてありがとうね。香苗は幸せ者だわ。だから暁くんも、ちゃんと幸せになってほしいのよ。だから、香苗のことに責任を負わなくていいのよ」

香苗の母親は俺の手を両手でぎゅっと包み込むように握った。
その手は優しくて温かかった。

「……」

どう返事をしていいのかわからなかった。
どうしたらいいのかわからず俺の思考は停止した。
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